「動画素材がないから広告は打てない」はもう終わり
2026/07/03
■ はじめに:Googleがまた広告の景色を変えた
「動画は大事だとわかっている。でも、うちには動画素材がない」——これは、筆者が中小企業の経営者や広報担当者と話すたびに、判で押したように聞こえてくる言葉です。実際に、動画マーケティングの必要性を理解しながらも、素材不足・予算不足・人手不足という「三重の壁」に阻まれ、一歩を踏み出せない企業は少なくありません。
しかし2026年、この壁を根本から崩す動きが本格化しています。Google Marketing Live 2026で発表され、2026年6月以降にDemand Genワークフローへ実装が進んでいるのが、Gemini(VEO 3ベース)を活用した動画生成CTA(Call To Action)機能です。これは、動画素材を一本も持たない広告主であっても、テキストや静止画、簡単なブリーフから広告用の動画クリエイティブをGoogle側が自動生成し、YouTubeやDiscover、Gmailといった多様な面に配信できるようにする仕組みです。同時期には、YouTube広告において複数ブランドをカルーセル形式で並べる新フォーマットのテストも始まっており、「動画を持つ者だけが有利」という広告市場の力学そのものが変わろうとしています。
一方で、LINEヤフー広告では2026年7月22日以降、一定の最小ピクセルサイズに満たない画像を使用した広告の配信が停止されることも発表されました。プラットフォーム側が「質の低い素材」に厳しくなる一方で、「素材がないなら生成すればいい」という選択肢を用意する——この二つの動きは、実は同じ方向を指しています。すなわち、2026年後半の広告・SNS運用において、動画クリエイティブの巧拙が企業の集客力を直接左右する時代に、いよいよ本格突入したということです。
本記事では、この最新動向を踏まえ、動画制作のリソースが限られる中小企業の経営者・意思決定者が、今すぐ取り組むべき「動画×広告」戦略を、実践ステップとともに解説します。
第1章 何が変わったのか
AIが「動画がない」という言い訳を奪う
まず押さえておきたいのは、今回のアップデートが単なる「AIで動画を作れる」という話にとどまらない点です。ポイントは、広告運用のワークフローの中に生成AIが組み込まれたことにあります。
これまで、AIによる動画生成ツール(Google Veo、Kling、Runway、Adobe Fireflyなど)は、あくまで「素材を作るための専用ツール」であり、そこで作った動画を広告アカウントに手動でアップロードする必要がありました。ところが今回のDemand Genワークフローの変化では、広告キャンペーンの設定画面上で、商品画像やテキスト情報を入力するだけで、AIがその場で広告用の動画バリエーションを複数生成し、そのままテストにかけられるようになっています。
これが中小企業にとって意味するのは、次の3点です。
第一に、「動画制作」と「広告配信」の間にあった大きな溝がなくなるということです。従来は、動画を外部の制作会社に発注し、納品を待ち、広告アカウントに入稿するという一連のプロセスに数週間を要していました。それが今後は、広告担当者がキャンペーン画面上で完結できるようになりつつあります。
第二に、「動画を試す」コストが劇的に下がるということです。これまで一本の動画に数十万円をかけて制作していた企業からすると、AIが自動生成する複数パターンの動画をテストし、成果の出たものにさらに人手による磨き上げを加える、という「まず試してから磨く」発想への転換が可能になります。実際、2026年に入ってからAI動画市場は186億ドル規模まで拡大し、AIエージェントを活用した動画制作によって制作コストを91%削減した事例も報告されています。広告面での自動生成は、この流れの延長線上にある動きだと理解すべきです。
第三に、「動画がないから広告を出せない」という言い訳が、競合との差別化要因ではなくなっていくということです。裏を返せば、AIが生成した「無難な動画」で満足する企業と、そこに自社ブランドらしさや、経営者・現場の顔が見える"人間らしさ"を加える企業との差が、今後より際立つということでもあります。AIコンテンツへの消費者の警戒感(AIコンテンツへの好感度が60%から26%へ低下したという調査データもあります)を踏まえれば、「AI×人の手」のハイブリッド運用こそが、これからの勝ちパターンになるでしょう。
第2章 なぜ今、中小企業がここに注目すべきなのか
専任の動画担当者を雇う余裕はなく、外部発注すれば一本あたり数十万円、シリーズ展開すれば数百万円規模の投資になる——これが多くの経営者を足踏みさせてきた現実です。
しかし、広告プラットフォーム側が動画生成を「機能」として組み込み始めたことで、状況は大きく変わりつつあります。まず、初期投資のハードルが下がります。AIが自動生成した動画をたたき台として使えるため、ゼロから絵コンテを起こし、撮影クルーを手配する必要がなくなります。次に、PDCAのスピードが上がります。従来は一本の動画で数ヶ月単位の検証しかできなかったものが、複数パターンを同時に配信し、数日〜数週間で効果検証できるようになります。そして、意思決定の民主化が進みます。動画の巧拙を判断するのに専門知識がなくても、実際の広告成果(クリック率、コンバージョン率)というデータをもとに判断できるようになるのです。
ただし、ここで注意すべき落とし穴もあります。AIが生成する動画は、あくまで「平均的に無難なもの」になりがちです。数多くの企業が同じAIツールを使えば使うほど、広告クリエイティブの同質化が進み、「またAIっぽい動画か」という消費者の慣れ・飽きが早まるリスクがあります。だからこそ、AIで生成したベース動画に、自社ならではのストーリー、経営者の言葉、現場で働くスタッフの表情といった「本物の情報」を掛け合わせることが、これまで以上に重要になります。ファウンダーズ・ブランディング(経営者自らが動画に出て発信するスタイル)や、顧客インタビュー・事例紹介動画といった「人間くささ」を伴うコンテンツの価値は、AI動画が普及すればするほど、相対的に高まっていくと考えるべきでしょう。
つまり、中小企業が取るべき戦略は「AIに全てを任せる」のでも「全て自前で作る」のでもなく、AIによる高速な仮説検証と、人の手による本物らしさの注入を組み合わせる、ハイブリッド型の動画運用体制を構築することにあります。
第3章 広告だけで終わらせない
ファネル全体で動画を設計する視点
もう一つ、2026年の動画マーケティングにおいて経営者が押さえておくべき重要な視点があります。それは、動画を「広告」や「SNSでバズるコンテンツ」としてのみ捉えるのではなく、顧客の購買ファネル全体——認知、検討、購入、オンボーディング、リテンション(継続利用・再購入)——を通じて一貫して活用するという発想です。
多くの企業は、動画を「認知獲得」の手段としてのみ捉えがちです。SNSでバズらせて、フォロワーを増やして、そこで終わり。しかし本来、動画が力を発揮するのは、顧客が意思決定に迷っている「検討」フェーズや、購入後に商品・サービスを使いこなせず離脱してしまう「オンボーディング」フェーズです。例えば、BtoB企業であれば、導入事例インタビュー動画を検討段階の顧客に見せることで受注率が向上しますし、サービス業であれば、契約直後の顧客に使い方説明動画を送ることで、解約率を下げることができます。
ここで重要になるのが、SNSやYouTubeといった外部プラットフォームで獲得した視聴者を、最終的に自社サイト・自社オウンドメディアの動画コンテンツへと呼び込み、そこで信頼を深めてもらうという「自社サイトとの連携戦略」です。プラットフォームのアルゴリズム変更や仕様変更に振り回されず、安定的に集客・育成・受注につなげるためには、外部プラットフォームを"入口"、自社サイトを"本拠地"とするHub&Spoke型の情報設計が欠かせません。AIによって動画制作・動画広告の生成コストが下がる今だからこそ、この「入口から本拠地まで」の一気通貫した動画設計に、これまで以上に予算と時間を再配分すべきタイミングだと言えます。
具体的には、次のような動画のマッピングが有効です。認知フェーズには、AIが自動生成した広告動画やショート動画で幅広くリーチを獲得します。検討フェーズには、顧客インタビュー動画や事例紹介動画、経営者自身が語るブランドストーリー動画を自社サイトに配置し、比較検討中の見込み客の不安を払拭します。購入・オンボーディングフェーズには、使い方解説動画やFAQ動画を用意し、離脱を防ぎます。そしてリテンションフェーズには、活用事例やアップデート情報を伝える継続的な動画コンテンツを配信し、既存顧客との関係を維持します。この一連の設計こそが、単発の「バズ動画」では得られない、持続的な事業成長をもたらす動画マーケティングの本質です。
第4章 今日から始める実践5ステップ
では、具体的に何から着手すればよいのでしょうか。ここでは、動画制作の専任担当者がいない中小企業でも実行可能な、5つのステップを紹介します。
ステップ1
現状の動画資産の棚卸しです。過去に撮影した写真、社内で撮った動画の切れ端、SNSに投稿した素材など、意外と使える"種"は社内に眠っています。まずはこれらを一箇所に集約しましょう。
ステップ2
Google広告のDemand Genワークフローで、AIによる動画生成を試験的に使ってみることです。まずは小さな予算でテスト配信を行い、AIが生成した動画のクリック率・コンバージョン率を確認します。この段階では「完璧な動画」を求める必要はありません。あくまでデータを取るためのたたき台と割り切りましょう。
ステップ3
反応の良かったパターンに、自社らしさを掛け合わせることです。AIが生成したベースに、経営者のひと言コメントや、現場スタッフの表情、実際の顧客の声を加えることで、同質化を避け、記憶に残るクリエイティブへと磨き上げます。
ステップ4
ファネル全体を見渡し、動画の「置き場所マップ」を作ることです。認知・検討・購入・オンボーディング・リテンションの各フェーズに、どの動画をどこに配置するかを一枚の図にまとめ、抜け漏れを可視化します。特に、自社サイトに検討フェーズ向けの動画コンテンツが不足している企業が多いため、優先的に着手する価値があります。
ステップ5
小さく始めて、データで判断し、継続的に改善することです。動画マーケティングは一度作って終わりではなく、AIによって高速化されたPDCAサイクルを、社内の習慣として定着させることが最終的な成功の鍵を握ります。
おわりに
変化の速さこそ、中小企業にとっての追い風である
Googleをはじめとするプラットフォームの機能変化は、目まぐるしいスピードで進んでいます。しかし見方を変えれば、これは大企業だけが専任チームと潤沢な予算で動画マーケティングを独占してきた時代の終わりであり、リソースの限られる中小企業にとっての追い風でもあります。AIが「動画がない」という参入障壁を取り払ってくれる今こそ、自社ならではのストーリーや現場の熱量を動画に乗せ、ファネル全体を見渡した一貫性のある発信を始める好機です。
とはいえ、「AIで生成した動画に何を掛け合わせればよいのか」「自社サイトとSNSをどう連携させれば効果的なのか」といった設計・戦略面は、初めての取り組みではつまずきやすいポイントでもあります。Chain-Moviesでは、こうした最新の動画・広告トレンドを踏まえた戦略設計から、実際の動画制作、SNS運用の伴走支援まで、企業ごとの状況に合わせてご提案しています。「何から始めればよいかわからない」という段階でも構いません。まずは自社の現状を整理する無料相談から、お気軽にご相談ください。

